子の連れ去りの末、面会交流が叶ったが…

公開日:  最終更新日:2016/08/01

 

行政書士 兼 離婚情報コーディネーターの中森です。

 

Aさんは長い調停の末、離婚が成立しました。妻から「性格の不一致」を理由に求められた離婚でした。

Aさんにしてみれば、最後まで納得のいかない離婚でした。せめて、自分の分身でもあるひとり息子に

会えるよう、面会交流の条件で「月1回子どもと会う」という要求は受け入れられ、家庭裁判所の

調停調書にもその事項は記入されました。

 

結婚12年、しかし実際に夫婦としての生活があったのは5,6年で夫は単身赴任、仕事を持つ妻はAさん

の赴任先に一度も訪れたことはなく、実質的な別居状態でした。そうするうちに妻から離婚請求がおこ

され、この問題が解決するまですでに数年が経過していました。その間、Aさんは子どもには一度も会っ

ていません。妻が子を連れ、居所をくらましていたからです。やむを得ず妻に押し切られた離婚

に、恨みを残しながら離婚を受け入れたのでした。

 

◆息子の後ろにいる黒い影

Aさんの望み通り、子どもと会うと決まった前夜、Aさんは興奮して寝つけませんでした。なにしろ子ども

と会うのは、3年ぶりでした。子どもは今、小学校の高学年、どんな顔になっているのか、どんな雰囲気

の子だろうか、男の子だからスポーツをしているのだろうか、どういう話をしたらよいのだろう、食べ物

は何が好きなのか…。

子どもと接することへの期待と不安で複雑な思いにとらわれました。子どもと会う場所は会社のロビーを

指定しました。「お父さんはこういう仕事をしているんだよ」と知らせたかったからです。

 

定刻に姿を見せた息子は、自分の少年時代のように、ちょっと華奢な体型ではにかみ屋のようでした。

「やあ、よくきたね」 そう声をかけようとしてAさんはハッとためらいました。息子の後ろに黒っぽ

いスーツの男がいて、こちらに軽く会釈します。それは家庭裁判所で何度か会った妻側の弁護士

でした。なるほど、弁護士が付き添っているのか。。。そう思うと気持ちが急に冷え込みました。こんな

状態でどんな楽しい話ができるのだろう。。。社内のショールームや宣伝用のプレゼントを渡しました

が、息子は言葉少なくうなずくだけでした。親子が会うのに監視付きというのは実にやりきれずぎこち

ないまま終わり、そして2回目の面接日がやってきました。

 

◆息子の存在が遠く感じる

前のように、会社のロビーで待っていると、今度は息子1人でやってきました。「そうか、前回の接し方

で、こちらは信用されたんだな」、そう思うとAさんの気持ちはほぐれました。息子と並んで会社を出る

と、近くの遊園地に向かいました。プロ野球球団のイベントが開催されていて子どもたちがたくさん集

まっていたのです。どうやら息子もこの球団のファンのようで目が輝いていました。

ちょうどファンクラブ申し込みの受付にさしかかったので、「どう、入る?」と聞くと、ウンとうなず

く。では親子で入会しよう、とそれぞれに渡された申込用紙に名前を記入しました。息子はどこに住ん

でいるのだろう、ちらっと手元に目を走らせました。息子は自分の名前を書き終えると、住所の欄は

空欄にして、「お父さんと同じ場所にして」と言いました。おそらく母親から言われて、この

子は住所を知られないようにしている。。そういえば通っている学校の名も話題からそらしていた。。

 

親子といっても、真の親子としては打ち解けることはできない関係なのだ。しかし、こうしてギクシャク

してながらも、接触を重ねればお互いに馴染んでいくだろう。Aさんはそんな風に自分の気持ちをなだめ

ながら、「夏休みはどうするの?」と聞いてみました。会社の保養地へ連れて行って、ゆっくり遊んで

やろう。そう思っていたのです。しかし、、息子の返答は「ぼく、おじいちゃんと海外旅行に行く

の」。。Aさんは一瞬、言葉が見当たりませんでした。話を聞くと、海外旅行は何度か経験済とのこと。

離婚せず、一緒に暮らしていたら自分の身分ではそんなことはとてもしてやれない。Aさんは急に息子

の存在が遠いものに感じられたのです。

 

◆自然な気持ちで会える日が来る

こうして面接するのも息子にとって、どう受け止められているのだろう。当然の権利として主張した面会

交流だが、Aさんは複雑な気持ちになってきました。「お父さんは真面目に生きているよ」そんな気持ち

を込めて息子に名刺を渡すと、今後の面接については、「きみが会いたいときに電話して。いつでも待っ

ているよ」と言いました。

 

あれから半年が過ぎ、息子からの電話はまだありません。しかし、まだまだ先は長い。息子はおじいちゃ

んでもなく、母親でもなく、父親と話がしたいというときがくるかもしれない。自然な気持ちで会うのが

一番いい。あせることはない。Aさんはいつしかそういう心境に達したのでした。

 

 

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